「経営分析」に思う事(はじめに)

 

 「経営分析」という言葉で検索すると数多の情報が出てきますし、書籍に関しても同様。YouTubeでもたくさんのコンサルタントの先生方が、豊富な経験を事例に丁寧に解説下さっています。

中小企業診断士、経営士、MBAなど資格や学位のカリキュラムも「経営分析」に関わる多くの授業が準備されています。

 では、これらの情報や学びをクリアすれば、誰もが経営コンサルタントになれるかというと、全くそうはなっていなくて、ごく一部の人だけが経営コンサルタントとして大成功しているのが現状です。これは、「経営分析」の情報や学びをクリアする(=「経営分析」の型を知っている)以上に、現場での経験で答えを出して成果をあげる事がコンサルタントして重要であって、「経営分析」の型を知っているのはスタート地点に立てただけ、という事なんでしょう。

「答えが無い」というのが現実社会なので、ある意味当然なんですが、巷の士業や社会人向けの学校の宣伝文句を見ていると、勉強して資格を取れば「すぐに起業出来て儲かる!」という謳い文句が多くて、どうにも違和感があるなあ、、と常々思っています(笑)

 

 ここでは、私がどういう「型」を持っているのかを記載して、それを皆様にどう貢献していくかも盛り込んで書いていきたいと思います。肩肘張らずに、軽く、お付き合いいただけると大変嬉しく思います。

(ちなみに、私の「型」は、尊敬する師匠の皆さんの著書のハイブリッド。「あっ、これ知っている!」というのもあるかもしれませんが、そう思われた方は同好の士になります。そういう方とお酒飲むと話が弾みそうですね。)

 

とういう事で、不定期に続けていきますので、よろしくお願い致します。 

 

「経営分析」に思う事(第一回)

仮説と検証の繰返し

 

 目の前で起こっている現象に、どの定義を当てはめるかによって、導く答えが大きく変わります。

四半期で見るのか、1年単位で見るのか、10年後の将来を見据えるのかという時間軸の長さ、その業界・業種の変動の大きさを頭に置いておかないと、後で大きく判断を誤ることになりかねません。

 

 具体的に、どういう事かと言うと、、、

「ある企業にとっての現在の強みは、その強みがダメになると全体の業績に悪影響が出る」「時間軸を長くすると、現在の勝因が将来のリスク要因なり、次の稼ぎどころを探っていかないと危険である」など、意識しないと見えない領域の事を言います。

 その際、一番大事なのは、その事業そのものの性格付け。

そこに時間軸や変動幅の異なる定規を当てて、さまざまな可能性やリスクを勘案するところまでして、初めて「経営分析」と言えると思います。

 

 実際の経営分析は、個別の企業に合わせたテーラーメイドですが、基本パターンはあります。自分の引き出しからさまざまなシチュエーション、色々なパターンの事例を引っ張ってきて組み合わせて「この部分はA社の事例と同じ」「この部分はB社の話に近い」などと想像力を働かせながら、ストーリーを組み立てていく。事業の性格もそうだし、そこに関わる人たちの人間模様もその中に含めていく。

そして「仮説」を作って、実際に現場を見に行って検証すると更に別のデータが見たくなる筈で、またそのデータをもとに想像し、仮説を立てて検証する。

  そういう仮説と検証の繰り返しで、経営の実態を掘り下げて、問題をえぐり出していくのが「経営分析」の王道だと思うのです。

これを図にすると、上図の感じですね。

 

次回は、仮説と検証の繰り返しが、大企業と中小企業でどう違うのかを書いてみたいと思います。 

 

「経営分析」に思う事(第二回)

 大企業と中小企業

 

個人的な経験で言うと「仮説」づくりが比較的簡単なのは大企業。入社時に、比較的に同質な人を選んでおりある種のパターンが当てはまることが多いからでしょう。

私は一部上場企業を2社経験しましたが、文化こそ違えどロジックを説明して、一緒に走り出すと概ね期待どおりの成果に結びついたもの。従業員の「経営」に対する興味も高いので、短期で仮説と検証を繰り返し何らかの結論を導き出せることが多いのでしょう。

 

むしろ中小企業、特にオーナー企業は無限のヴァリエーションがあって、企業の実態に近づくのに一苦労します。こういう場合は、大企業と同じようなロジックを経営者や従業員に説明しても「経営分析」は前に進まず。「経営」に興味が高い従業員がいたとしても、オーナーやその時の為政者の力が強過ぎて、「自分が頑張る」という気持ちが萎えがちなので全く異なるアプローチが必要になります。

たとえば、先代のおやじさんの顔でつなっている取引先がたくさんあって、全売り上げのうち先代の親父さんの仲良くしていた三つの会社からの仕事が全体の7割を占めている場合、その三社との関係をどう維持するのかが重要なのであって、それ以外の事は二の次だと言わざるをえない。ロジカルな市場分析は、もっと後で良いのです。

(話は少しそれますが、それ故に、中小企業の事業承継は難しい。事業だけでなく、オーナーやその一族のプライベートにまで突っ込んで、ベストの事業承継の方法を見つける事が必要だから。これは、専門性の高い士業の仕事というよりも、経営や事業の現場経験が豊富なアドバイザーや顧問の仕事と考えた方がいいでしょうね。)

 

ただ、大企業と中小企業の「経営分析」は、こういったアプローチの仕方は異なるが、結論を導き出すときに数字が最も重要なのは変わりません。要は、数字の背後のストーリーが異なるので、アプローチが変わるという事。

その「数字の背後にあるストーリー」をつかまえる為に必要なのは、想像力、イマジネーション。そのイマジネーションは体験しないと育たない。だから、場数を踏んで経験する意味はそこにあるのです。 

 

「経営分析」に思う事(第三回)

PL

 

数字の背後にある企業の実態を想像するには、PL以上いいものはないと思います。それぞれの費目の数字の中に、どんな背景が隠されているのか、イマジネーションのきっかけになり、数字の後ろのドラマをどれだけ透視できるか。組織の実態や物語を投影しながら数字を見ていけるからです。また、1社だけでなく、複数の企業のPLを比較してみる事も重要。

 大企業ならば、業界シェアの前後数社を比較。

 たとえば、日本航空のPLの数字を見て、おそらくこの会社ではこういう事が起きているのではないかと仮説をたてる。全日空のPLを見れば、別の仮説が成り立つ筈。そして、LCCならこういうPLになるのではないか、という予測も立ちます。そう思って実際に見てみると、仮説が正しい場合もあれば、思っていたのと違うこともあるものです。

 中小企業ではPLは開示されているわけではありませんが、自社と似たような業態の大企業を比較の対象にするのは面白い筈。そうすると、共通の特性は勿論、何が劣っていて優れているのかも見えてきます。「あっ、大企業ではここは凄いけど、これは苦労してそうだな」という点が見えてくるだけでも、自社の経営のヒントや参考になるでしょう。

 そういう作業を繰り返すことで、その業種の共通の特性が見えてくるし、その中で日本航空という会社の特性、すなわち個別の世界に入ってくる。個々のドラマを洞察するうえで、

PLが重要な手掛かりとなるのは間違いありません。

 

 こうやってPLを突破口に仮説を立ててきますが、次に気を付けないといけないのは、PLとBSの関係、CSの位置付けです。 

 特に、BSは、意外に理解しているつもりで理解されていない事が多いようなので、次回はPLとBSの関係から紐解いていきます。

 

「経営分析」に思う事(第四回)

PLとBSとCSの関係

 

一連の取引のうち、あるものはPLにもっていって、あるものはBSに持っていきますが、そこには裁量の余地があって、PLを正確に読むためのBSも読めなければいけない、となります。ある取引のトランザクションを費用として計上する(PLに記載)のか、債務として認識する(BSに記載)のか、ここには解釈の幅があって、実は同じ行為が両者の間を行き来することは珍しくありません。

 

だから、PLとBSを別々に見ていても実はあまり意味がなくて、両者を連動させて、どんな取引がどこに記載されているのかをチェックする事が非常に重要です。PLをベースにしながら、足りないところをBSで認識していくスタイルが王道と言ってもいいでしょう。

 

 CSも同じ考えで見ればよいと思います。CSというのは、PLとBS上を行き来している取引のトランザクションのうち、現金に関わる項目だけを取り出してつくった計算書の事ですから、実際に現金の出入りがあって、それは銀行口座の記録に残っているので、財務三表のうちでもっとも確からしさがあります。銀行の残高を調べれば実態はつかめるので、数字の嘘を見抜くのはCSから、と理解していいと思います。

「経営分析」に思う事(第五回)

まとめ

 

ここまで書いてきた事、つまり経営分析で最も重要な「数字」=財務三表に関しては、以下の事が言えて、実はこれが私の「基本の型」の一つです。

PLを突破口に企業実態を思い描き、BSで確認。

最後は嘘のないCSでチェック。 

補足して書いていしまうと、財務三表を頭で読んでいるうちはダメで、大局的に見て、この景色は何か変だなとか、この景色はいい景色だなとか、そういう直感が働くようになる事が必要です。(さもないと、分析のスピードが上がらない)

また、自分が思い描いたストーリーに照らして、どこか不自然なところがあるなあとか、なぜこの数字はこんな値になっているのか、という疑問が浮かんだら、そこをきっかけに掘り下げる。このあたりは訓練(=場数経験)なので、仮説を立てて、検証してという事を繰り返すしか身に着ける方法はないんでしょう。

なんだか、こう書いてしまうと、それほど難しい事の様に思えないんですが(笑)、やってみると凄く難しい。実際の現場ではたくさんの数字があって、それとは別に色んな出来事が次から次に起こって、結局整理がついていない事が多いものです。

土台となる「数字」を早く整理して分析を短期間で終えてしまい、その分析内容を頭に置いて事業を成長させる活動に軸足を置きたいものです。

 

という事で、次回からは、こういう数字を実際の事業の分析にどう使うのか、実体験も交えて記載してみたいと思います。